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最高裁判所第一小法廷 昭和55年(行ツ)78号 判決

主文

原判決中上告人敗訴部分を破棄し、右部分につき第一審判決を取り消す。

被上告人らの本件訴えを却下する。

訴訟の総費用は被上告人らの負担とする。

理由

上告代理人萩原潤三、同比嘉廉丈の上告理由第一について

一  被上告人らの本件訴えは、上告人が被上告人らに対し昭和四七年九月一日付けでした各転任処分(以下「本件転任処分」という。)の取消しを求めるものであるところ、原審は、次のとおり認定判断した。

(一)  本件転任処分は、吹田市立第二中学校(以下「吹田二中」という。)において同年六月二六日から七月八日ころまで続いた同校生徒を巻き込むような大混乱の続発を回避するためと同和教育の推進を図るためにされたものである。

(二)  本件転任処分は、勤務場所、勤務内容について不利益があるとは認められない。しかし、吹田二中での大混乱は社会的にも注目されていた不祥事であつて、本件転任処分が右教育現場での大混乱に関連していることは明らかであり、これを契機としてされた被上告人らに対する異例な年度途中の転任処分が被上告人らを目して一方的に右大混乱の責任者であり吹田二中での教育につき不適格者であるとするものとして受け取られることはいうまでもない。したがつて、本件転任処分は、被上告人らの名誉を著しく傷つけるものであるから、処分の内容が不利益とならなくても、処分をしたこと自体が不利益処分となる。

(三)  部落解放同盟光明町支部(以下「解同光明町支部」という。)が中学生の教育の現場に二週間も引き続き大量動員をして糾弾闘争をし、生徒を巻き込み教育現場に大混乱を発生させたことは、法秩序を破る不当不法な暴挙というべきであるのに、かかる大混乱発生に際して、いささかも解同光明町支部の行動を批判せず、同支部に学校からの退去を求める等の毅然たる態度をとることもなかつた吹田市教育委員会(以下「市教委」という。)及び学校長の態度には非難されるべきものがある。被上告人らについては混乱の続発防止のため転任処分をすることが必要であつたとは認められないこと、及び右のような市教委の態度等を考慮すると、本件転任処分は著しく妥当を欠き、裁量権の範囲を超えた違法なものというべきである。

二  原審の認定判断の大要は右のとおりであり、これに対し、論旨は、本件転任処分を不利益処分とした原審の判断は地方公務員法四九条の解釈適用を誤つたものである、というのである。

三  本件転任処分当時における市教委の解同光明町支部に対する姿勢に非難されるべき点があるとする原判決の認定判断は首肯できないものではない。しかしながら、本件転任処分は、吹田二中教諭として勤務していた被上告人らを同一市内の他の中学校教諭に補する旨配置換えを命じたものにすぎず、被上告人らの身分、俸給等に異動を生ぜしめるものでないことはもとより、客観的また実際的見地からみても、被上告人らの勤務場所、勤務内容等においてなんらの不利益を伴うものでないことは、原判決の判示するとおりであると認められる。したがつて、他に特段の事情の認められない本件においては、被上告人らについて本件転任処分の取消しを求める法律上の利益を肯認することはできないものといわなければならない(原判決のいう名誉の侵害は、事実上の不利益であつて、本件転任処分の直接の法的効果ということはできない。)。なお、被上告人小川については、昭和五五年四月、本件転任処分による転任先の吹田市立青山台中学校から本人の希望により同市立片山中学校に更に転任したものであることが記録上明らかであつて、本件転任処分の取消しにより吹田二中の教諭たる地位を回復するものではないことも明白である。

してみると、本件転任処分の取消しを求める被上告人らの本件訴えは、いずれも不適法というべく、もし被上告人ら主張のごとき理由により本件転任処分が違法であり、これにより被上告人らの名誉・信用等がき損されたとするのであれば、国家賠償法に基づく損害賠償請求によつてその救済を求めるべきものである。それ故、本件転任処分が被上告人らの名誉を著しく傷つけるものであることのみを理由に、その取消しを求める被上告人らの本件訴えにつき本案の判断をした原判決には、法律の解釈適用を誤つた違法があるものといわなければならず、右違法が判決に影響を及ぼすことは明らかである。論旨は、右の趣旨をいうものとして理由があり、原判決は破棄を免れず、また 本件訴えにつき本案の判決をした第一審判決も、取消しを免れない。

よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇八条、三九六条、三八六条、九六条、八九条、九三条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 谷口正孝 裁判官 高島益郎 裁判官 大内恒夫 裁判官 佐藤哲郎)

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